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老人の国へまっしぐら、高学歴女性ほど結婚しないタイ


2015-11-25

政府がお見合い会を主催しなければならなくなった国、シンガポールのケースを前回は見てきた。しかし、「笛吹けども踊らず」で、少子化対策に特効薬はないようである。


 タイと言えば、日本と二人三脚で発展してきたと言ってもよいほど日本企業の進出が著しい。タイで大規模なデモが発生して放火されるような事件があっても、日系企業の入っているビルは絶妙に避けるとも言われている。
 ASEAN(東南アジア諸国連合)で第2位の経済大国、さらにこれからも投資拡大が期待されているタイも、実は少子高齢化問題が重くのしかかってきた。

 日本にとってもアジアの拠点として最も重要な国と言ってもいい。しかし、この国でも少子高齢化が急ピッチだ。いまや日系企業がタイに進出する際の問題は、賃金やカントリーリスクの上昇ではなく、実は人手不足(高度人材含む)にある。

あと15年で高齢者率25%に

 タイ国家統計局によると、2014年の60歳以上は6500万人の人口のうち約1000万人で、全人口の約15%にも上り、6.5人に1人が60歳以上という、すでに立派な高齢化社会となってしまった。

 1994年に約7%だった60歳以上人口が2012年には約12%へと跳ね上がった。高齢者数は2030年には1760万人(総人口の約25%)、2040年には2050万人に達すると見込まれている。

 また、合計特殊出生率も1.39と日本より低く、首都バンコクに限っては0.8とも言われ、平均年齢も他のアジア諸国よりはるかに高い34歳(ASEAN域内で2番目、トップはシンガポール)。

 ASEAN域内では、イスラム国家ゆえに人口増が見込まれるインドネシアやマレーシアを除けば、タイはシンガポールに次いでいち早く、“超”少子高齢化社会へ向かうのは間違いないだろう。

 他のアジアの国と同様、医療技術発展に伴い平均寿命が伸び、高齢化に拍車がかかり、一方、人口抑制策を進めるなか、女性の高学歴化による社会進出拡大で晩婚化、未婚化が急増していることが背景にある。

筆者の友人のタイ女性も独身生活を謳歌している。30代前半の彼女は、タイの東大と呼ばれる最難関のチュラロンコン大学を卒業し、米スタンフォード大学で経営学修士を取得。現在バンコクの欧米企業で管理職を務めている。月収は日本円に換算して約80万円。


 彼女曰く、「皆、結婚したくないのではない。だけど、特にタイの男性は働かないし、女性が家計を支えて働いているケースも多い。タイに理想の相手がいないだけ。今の生活を切り詰めてまで、という結婚願望がないとも言えるかな」とあっけらかん。
 彼女によると、タイ、特に都市部の高学歴の女性は本当に結婚しないという。

 日本では「ワーキングプア」層の拡大で結婚できない男性が増えているが、タイでは女性や男性で年収が低いほど結婚率が高く、その反対に年収が高いほど結婚率が低いという現象が起きている。

地方でも子供は最大2人まで

 タイの場合、上述の友人のケースだけでなく、本人が高収入だから結婚しないというより、贈与税(2016年2月施行予定)や固定資産税(2017年施行予定)もないタイでは一族の資産が多く、裕福なステイタスや生活を手放したくないという社会構造事情も左右しているかもしれない。

 また、「結婚しない女」だけでなく、晩婚化で「子供を生まない女」も増えてきており、今では都市部に比べ子供が多いはずの地方ですら、夫婦の間に子供は2人までというのが常識化しているという。

 そんななか、政府(軍事政権下)は政治経済の制度改革を図る「国家改革議会」が少子高齢化対策を重点施策と位置づけ、このほど同対策のため2017年度(2016年10から2017年9月)から、個人所得税の控除枠拡大計画を明らかにし、子育て支援目的の「年少扶養控除拡大」を盛り込んだ。

 現行では年少扶養控除は「子供3人が限度」(子供1人当たり1万5000バーツ=約5万円)だが、これを「無制限」に変更することで、4人目以降の多産出産にインセンティブを与えようというもの。

 指定教育機関就学の場合は、「25歳まで」が控除対象。今後は「年収の40%、最大6万バーツ(約19万円)」の基礎控除拡大も検討中だという。

また、少子化対策だけでなく高齢社会に向けた取り組みも、まだ始まったばかりだ。


 経済発展に伴う物価上昇などで、公的年金では賄えず、生活費などのほとんどを子供や孫からの仕送りなどに依存し、医療費などへの将来不安などを理由に高齢者の自殺が20%近くにまで増加し、年々増加傾向にあるという。
 最大の問題は、高齢者の低所得問題。タイの国家統計局などの調べでは、高齢者のうち、貯蓄のある人は34%にとどまり、その半数以上が貯金が全くない状態で、「貧困高齢者」が増えているという。

 首都バンコクには、24時間体制の高齢者専門医療施設があるが、破格な入居料で富裕層に限定されているのが現状だ。

 とりわけタイでは、高齢化対策は少子化を上回る緊急課題。医療や介護サービス、さらには年金問題など取り組む問題は目白押しだ。高齢者基金は設立されたものの、高齢者医療保険や老齢年金についてはまだまだ検討の段階。

年老いた親が孤独死するケースも

 制度面の問題だけでなく、少子高齢化問題は、タイの伝統的な家族制度の「大家族主義」も変えようとしている。都市部でも農村部でも共働きの両親に変わって祖父母が子供の面倒を見て、家族を支えてきたが、その大家族主義も崩壊危機寸前だという。

 経済成長の発展で農村の若い世代は都市部に移住、年老いた親が孤独死するケースも増えてきたという。

 現在のタイの1人当たりのGDPは約5426ドル(IMF統計、2015年10月時点)。今年にも人口ボーナス期が終焉すると見られるが、先進国との経済や技術力と後発新興国の追い上げの狭間で、このままいくと、豊かになる前に老いていく事態に陥ることが予想され、まさに「中所得国の罠」にはまってしまったと言える。

 こうした事態は、中国リスクを避けるためもあっていまなお進出が絶えない日本企業にとって厄介な問題だ。アジアは日本と違って若い働き手がいっぱいいる、しかも賃金は安い――。このような考えをいまだ持っているとしたら、それは幻想に過ぎない。

 さて、次回はお隣の国、韓国と中国を取り上げる。これらの国もまた深刻な事態に発展している。