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ニュース:再生医療の世界的インパクト


2013-12-20

黒川清・日本医療政策機構代表理事監修

イモリのシッポや手を切っても、いずれきれいに再生する。これを応用したものが再生医療である。

 2013年2月23日の英エコノミスト(The Economist)誌においても、「The best market in the world right now」、つまり日本は世界でもっとも有望なマーケットであり、再生医療のフィールドは、それを象徴するものとして大きく取り上げられている。

 そのような中、今年11月、改正薬事法と再生医療新法(再生医療等の安全性の確保等に関する法律)がセットで成立、我が国の再生医療の制度が改定された。

 筆者は、海外から多くの問い合わせに応え、ハーバード大学や米国NIH(国立衛生研究所)、IOM(米国医学研究所)、NAS(米国科学アカデミー)において新しい制度の紹介を行ってきた。ここでは、我が国の再生医療を担う新たな制度を解説したい。

改正薬事法のインパクトとは?

 薬事法とは、医薬品や医療機器等の安全性、有効性等を担保する法律である。この改正薬事法のどこが世界的インパクトであるのだろうか?

 通常、1つの医薬品を世に出すためには、薬事法に則った承認のプロセスが必要となる。承認を得るためには、多くの臨床試験(治験)が行われ、10年以上の年月がかかることは珍しくない。

 全く新しい治療技術である再生医療については、従来の医薬品の承認のプロセスをそのまま適用することができないため、あらたに承認のプロセスを確立し制度化する必要があった。

 改正薬事法では、新たに「再生医療等製品」というカテゴリーが創設され、再生医療等製品に特化した新しい承認制度が確立される。なお、「等」には遺伝子治療製品や細胞を用いたがん免疫療法製品が含まれる。

 また、それが新しい技術であることから、再生医療の安全性の確認には、これまでの経験が蓄積された通常の医薬品よりも、長時間を要するのが世界的な傾向である。

 今回の薬事法改正により、必要とする再生医療への患者のアクセスをより早くすることが可能となり、有効性の判断については一定数の限られた症例から従来より短期間で有効性を推定することとし、安全性については急性期の副作用等は短期間で評価を行うことが可能とされ、これらにより、よりスピーディーな実用化が可能になるとされているため、世界の注目を集めているのである。

 

再生医療新法について

 さらに、再生医療新法により、効果や安全性が確立されていない再生医療は規制されることになる。この法律ができた背景には、我が国では、これまで規制が十分でなかったために医師の裁量権に基づく医療行為の1つとして、一般のクリニック等で再生医療が実施されてきた、という事情がある。

 都会では、電車から外を見ると、年老いた肌を蘇らせるという触れ込みで再生医療美容クリニックの看板をみかける。現在、世界には効果も安全性も検証されていない様々な再生医療があふれている。

 米国で開催されたIOMとNASが主催したワークショップでは、クリニックで細胞を増やし、シート状にして、美容目的で顔の表面を覆う細胞パックも取り上げられていた。米国をはじめとする多くの先進国では、政府がこれを厳しく規制している。

 このような、再生医療が厳しく規制されている先進国では、規制のないあるいは緩い国へ、効果も安全性も検証されていない再生医療を求めて患者が移動する、というメディカル・ツーリズムが生じ、安全面から見て大きな問題とされている。

 これまでの日本は、先進国でありながら、再生医療に関する規制の緩い国であり、規制の厳しい韓国などから効果も様々な再生医療を求めて患者が移動して来る側の国であった。

 そして、恐れていた通り、京都のクリニックで再生医療を受けた韓国人が帰国した後に急死するという厳しい事例が発生した。

 このような事例は、世界から見た日本の再生医療全般への不信感を招くことになり、iPS細胞の実用化に邁進する我が国としては、早急に是正する必要があったのである。

 この再生医療新法により新たに規制が設けられたことでそのリスクが低減されるようになった、と言われており、我が国の今後の再生医療の動向が世界的に注目されているのである。

再生医療とは

 再生医療と言うと、京都大学山中伸弥教授のiPS細胞によるノーベル賞受賞が記憶に新しいところである。再生医療とは、一度ヒトの身体の外に取り出した細胞を、体外で培養することによって細胞の質を変化させたり数を増やしたりした後に、ヒトの身体に投与、移植する治療法を言う。

 iPS細胞の技術は、あらゆる細胞を作る可能性を有し、治療目的の細胞あるいは臓器を作成する上で大変有用な技術として期待されているのである。

 治療に用いる細胞は、自分の身体から採取された細胞である場合(自家細胞)と、他人から採取された細胞である場合(他家細胞)の2種類があり、日本では前者、米国では後者が主流となっている。

 再生医療は、難病をはじめとして治療法がない、または治療法の選択肢が乏しい病気において、新たな治療として期待されている。

 日本では臓器移植のためのドナー臓器がまだまだ不足しており、将来は、再生医療の技術を用いて移植するための様々な臓器を作成できるのではないかという夢も語られるようになった。

 また、心筋梗塞など心臓の筋肉が損傷した患者に対して、幹細胞から作成した「細胞シート」をあてがうことによって、弱くなった心臓のポンプ機能の回復を図るという試みがなされている。

 その一方、脳卒中や脊髄損傷など回復不能と考えられてきた疾患において、再生医療が試みられる過程で、臓器再生以外の様々な治療効果の可能性も指摘されるなど、多様な疾患に対する様々な新しい治療方法への応用も検討されるようになっており、今後、大きくまた広く発展することがきたされている医療分野である。

再生医療の課題

 従来の医薬品の多くは、低分子化合物のような医薬品は化学物質を合成したものであり、品質が安定し、評価方法は定まっている。医療機器は金属や電子回路で主に構成されており、医師の技術熟練度がからむとはいえ、機器の性能自体の評価は難しくない。

 一方、再生医療では、細胞を培養するというプロセスにより化学物質のように高度に均質で再現性の高い製品を作成することは容易でない。不均一な製品では治療効果も不均一となる。

 また、培養のプロセスで最も留意すべき問題は、細胞の癌化であり、治療に用いる何万個もの細胞が不均一で1つでも癌化した細胞が混じっていると、そのような製品で治療された患者に癌が発生する危険性がある。

 特に、日本で主流となっている自家細胞を用いた再生医療製品は、非常に不安定かつ不均一であり、効果や安全性の科学的評価はなかなか容易ではない。

 一方、欧米で主流となっている他家細胞の場合は、比較的安定で均質な製品を作成することが可能であることから、時間はかかるものの効果や安全性の科学的評価が可能である。ただし、他家細胞の場合には、体内に細胞や臓器を戻した際の拒絶反応が問題となることから、理想的には自家細胞を科学的に評価し製品化することが理想と考えられるとする意見もある。

 また、他家細胞であっても、新たな研究の進展により免疫抑制剤が不要となる可能性もあるという意見もある。加えて、iPS細胞においてもさらに腫瘍化のリスクが高くなることを心配する声もあるが、100%の安全を保証することはなかなか難しいだろう。

 米国FDAにおいても再生細胞医療の審査のハードルはきわめて高いという声もあり、特に、重要視されているのは、安全性の検証である。

 その一方で、再生医療を求める患者は重症疾患や難病を有することが多く、なぜ自分の細胞を用いるのに自国で治療を受けられないのか、と主張する患者の声もある。

 再生細胞医療の審査に対するベンチャー企業や大学からの批判には、上記のような再生医療の課題がその背景にあるものと考えられる。

おわりに

 医薬品や医療機器とは異なる世界的に新しい再生医療等製品に特化した承認制度により、有効性が推定され、安全性が確認されれば、世界的なインパクトとなる。

 現在、神戸理研の高橋政代先生やヘリオスというベンチャー企業などが中心になって、加齢黄斑変性症と呼ばれる網膜の重症疾患ついて、世界初の、いわゆるファースト・イン・ヒューマン試験が準備されており、来年ぐらいに実施されようとしている。

 再生医療分野の競争が世界的に激化している中、このようなプロジェクトについて官民を挙げて支援する枠組みはまだまだ十分とは言えない。

 我が国の再生医療を担う新たな制度のもと、関連省庁が関係予算を統合し、有能な人材の雇用に努め、プロジェクトの進捗管理を行いつつ出口戦略を描き、より一体的な支援の仕組みを構築する必要がある。

 民間資金や個人の寄付なども集め、基金の創設を検討してはどうか。さて、現代の太陽神ヘリオスは盲目になったオリオンの眼を癒すことができるのか?

2013年12月20日
JBpress
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39369