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ニュース: 【世界に挑む 日の丸医療】第2部 官僚たちの模索(中)


2013-09-29

安倍外交 新たなカード

 今月14日に発行された世界的権威の英医学誌「ランセット」に、「日本の国際保健外交戦略-なぜ今重要か」と題する安倍晋三首相の論文が掲載された。

 首相は「21世紀は国際社会の共通問題を解決する指導力が重要。日本はそれにふさわしい力と意志を持っている」とした。保健・医療を新たな「外交カード」にしようというのだ。

◆見えぬ司令塔

 日本政府が、医療を「外交カード」と捉えるのは初めてではない。1979年、初めて国際緊急援助活動として行ったカンボジア難民支援。救援医療チームの活躍ぶりは、世界の注目を集めた。しかし、その後は「カード」を生かし切れていない。

 その象徴が、エイズ・結核・マラリア対策のための「世界基金」だ。2000年の九州・沖縄サミットで日本が呼びかけたことから「日本発」と言われるが、日本人幹部はほとんど見られない。その存在さえ知らない日本人も多い。

 当時、実務を仕切った野上義二元外務省事務次官は「世界基金は生みっ放しだった」と語る。「医師だけでなく、国際組織を運営できる人材も育ててこなかった。国内で快適に働けるのだから、厳しい環境の国外に身を投じようという人は限られる」というのだ。

 問題は人材不足だけではない。関係者の話から浮かび上がるのは、司令塔の不在だ。各省が“省益”に走り、国家戦略が欠如しているのである。

 例えば、政府開発援助(ODA)だ。毎年、現地の大使館が具体的な計画をまとめ、外務省本省が承認するのだが、関係者は「昔は大使が自分の赴任中の実績づくりのため、形が残る大型病院を作りたがる傾向にあった」と認める。

◆進まぬ省庁連携

 目にみえる日本の貢献を誇りたがるのは政治家も同じだ。外務省OBは「空港に到着するや、『日本の旗はどこにあるんだ』と現地の日本大使館職員に尋ねる国会議員も少なくなかった」と振り返る。

 国家戦略がないため、省庁間の連携も進まない。外務省幹部は「医療分野は省内に専門家がおらず、『よく分からない』と片付けられてきた」と語る。一方、厚生労働省は国内問題に追われて、海外に目を向ける余裕がない。厚労副大臣だった自民党の武見敬三参院議員は「『俺たちの担当は国内で、海外のことは知らない』という体質だった」と指摘する。

 武見氏が縦割り行政の弊害を痛感したのは、国際保健における主要8カ国(G8)の行動指針をまとめた08年の北海道洞爺湖サミットだった。

 同氏が中心となり、日本の貢献の在り方を検討する研究会の設置が決まったが、各省の協力が得られず動かない。G8所管は外務省、保健政策は厚労省、世界銀行は財務省といった縄張り争いが原因だった。

 「各省バラバラで束ねる人がいない。福田康夫首相(当時)らのトップダウンで何とかなった」と述懐する。

 昔から、国際医療に対する官僚の意識は高かったとはいえない。厚生省(現厚労省)は1986年、海外貢献に出向く医療人材を確保するため国立病院医療センター内に国際医療協力部を設置したが、笹川記念保健協力財団の喜多悦子理事長は「本省からは『野良犬集団』といわれていた。何をやっているのか分からず、品が良くないと思われていた」と当時を語る。

◆国家戦略必要

 こうした過去の反省を踏まえ、首相が発足させたのが「健康・医療戦略推進本部」だ。経済産業省幹部は「史上初の医療分野のコントロールタワーだ」と評する。

 だが「医療は成長産業」と捉える“経産省流”をひっさげての安倍医療外交の下、これまでの議論は医薬品や医療機器といった産業を成長戦略にどう役立てるかが中心だ。事務担当は厚労、文部科学、経産など5省から出ているが、外務省は蚊帳の外。外交戦略の司令塔にはほど遠い。

 同じ事務担当でも、社会保障改革に追われる厚労省は相変わらず及び腰だ。原徳寿医政局長は「全体を眺めながら、必要なプロジェクトを立ち上げていきたい」とするが、中堅幹部は「人を割く余裕はない」と省内事情を明かす。

 安倍政権は有効に「カード」を切れるのか。首相自身が司令塔となって国家戦略を打ち立てなければ、これまでと同じ轍(てつ)を踏むこととなる。

 

msn 2013.9.28

 http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130928/plc13092811000006-n1.htm