医療産業の海外戦略コンサルティング企業  ㈱ボーラボ

お気軽にお問い合わせください お問い合わせ 海外医療の求人・就職
海外の病院などをご紹介、まずはご登録ください。
求人フォーム

海外医療機関などご紹介
まずはご登録ください。

求人登録フォーム

ニュース

ニュース: 世界から人が訪れる福島にする - 渡邉一夫・一般財団法人脳神経疾患研究所理事長に聞く◆Vol.1


2013-07-02

安倍首相は、この4月のロシア訪問で、産学官でロシアと共同で新病院「日ロ先端医療センター」(仮称)を作り、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)を核とすることを表明。癌治療の新手法としてBNCTへの注目が集まる中、サイクロトンを使ったBNCTを世界で初めて導入し、来年から臨床実験を開始するのが、一般財団法人脳神経疾患研究所(福島県郡山市)だ。
 BNCT導入は、国および福島県から約43億円の補助金を受けた、総額約80億円にも上る一大プロジェクト。南東北総合病院などを運営する脳神経疾患研究所の理事長を務める渡邉一夫氏は、東日本大震災および福島第一原発事故からの復興の柱として期待する。国内外で幅広く事業を展開する渡邉氏に、BNCT導入の経緯や今後の事業展開についてお聞きした(2013年5月31日にインタビュー。計2回の連載)。


――BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)による癌の治療は、これまでは実験用原子炉で研究的に行われてきました。今回、先生方が導入されるのはサイクロトロンで中性子を発生させるシステム。震災復興もあり、約80億円の総事業費のうち、国と県の補助金として43億円を受けて、来年から臨床試験をスタートするとお聞きしています。

 

 私は脳外科医であり、「脳の悪性腫瘍を治したい」、その一心で取り組んでいます。脳の悪性腫瘍の治療は非常に困難で、薬や手術でも、また放射線治療でも難しい。そこで期待がかかるのは、BNCT。ただ残念なことに、従来は研究施設の原子炉を使わなければ、中性子を発生させることができなかった。茨城県の東海村、大阪府の熊取にある京都大学原子炉実験所でしか、これまで行われてこなかった。

我々が建設している「南東北BNCT研究センター」(仮称)に導入するのは、サイクロトロン(加速器)を用いて中性子を発生させるシステム。住友重機械工業と京都大学原子炉実験所が共同開発したものです。BNCTを世界で一番実施しているのは、ヘルシンキ大学ですが、サイクロトンを使いBNCTを実施するのは、我々が世界で初めてです。

 BNCTには、ステラケミファ(大阪市)の子会社が開発した、ホウ素薬剤を用います。ホウ素薬剤は、癌細胞に特異的に取り入れられる。サイクロトロンで発生させた中性子をホウ素薬剤に充てると、核分裂を起こして、α粒子線とリチウム原子核が放出される。その飛程は細胞径を超えないので、悪性腫瘍だけを破壊することができます。

――ピンポイントで癌細胞を破壊できる。

 脳は正常細胞が一部でも壊れたら、大変なことになるので、ピンポイントの破壊でもダメ。細胞レベルで特異的に破壊することが必要。こうした治療法はこれまでありませんでした。外科手術でも、放射線療法も、細胞レベルではできない。抗癌剤も、なかなか効果があるものがない。また、頭頸部から上の癌の場合、手術や放射線療法で、顔面が損傷したら、極めてQOLは低下し、生きているのもつらくなってしまうという問題もあります。

 BNCTの特徴は、陽子線治療のように、1カ月も、2カ月もかかるわけでなく、照射は1回で済み、1回当たりの照射時間は20~40分と短い。痛くも、痒くもない。したがって、たくさんの人数をこなせるというメリットもあります。当院で導入するサイクロトロンは1台ですが、治療室は二つ。どのくらいニーズがあるかは現時点では不明ですが、将来的には1室当たり1日7人までは可能だと見込んでいます。

 脳や頭頸部の悪性腫瘍を対象に、臨床試験を2015年から開始し、2、3年で100例実施し、100例に達したら、先進医療として厚生労働省に申請する予定です。日本国中から、そして世界から患者さんが来ることを期待しています。

――臨床試験の100例の費用は、誰が負担することになりますか。

 患者さんの負担は無料。今回の「南東北BNCT研究センター」(仮称)の設置は、いわば国家プロジェクトでもあります。国の2011年度第3次補正予算を活用した医療関連産業集積プロジェクト補助金の一環として、国・福島県から約43億円の補助金をいただいた。それに加えて40億円近く我々が負担して、トータル約80億円の事業費になります。このプロジェクトには京都大学、筑波大学、東京理科大学なども関わりますので、事業費の一部は、研究費としてこれらの大学等にお支払いする。我々は、その残り費用で、建物や器機などを導入するほか、患者さんの医療費に充てます。

――先生は、「福島を、世界から人が訪れる地にしたい」とおっしゃっておられました。

 

 BNCTをはじめ、医療を受けに患者さんが来る。また医療者も研修に来る。我々が「福島を、世界から人が訪れる地にしたい」と考えたから、国と県も一民間組織に43億円の補助金を出したのでしょう。

――43億円の補助金申請の際、どんな内容のものを提出されたのでしょうか。

 福島は、東日本大震災で大きな被害を受けました。さらに福島第一原発事故で、放射性物質による汚染という被害を被った。この放射能被害は、いくらお金をかけても元に戻らない。海外から人が来なくなり、福島県人も若い人は、県外に出ていく。ここまま行けば、福島は「亡国県」になってしまう。それはあまりにもみじめ。どうすれば、若い人が福島県に来るようになるか。テレビや自動車、あるいは製薬企業の工場を作るなど、普通のことをやっていては戻らない。「今まで治らなかったものも、治る」医療施設があれば、患者さんも、そこで働く人も福島県に来る。

――皆が必要としていることに取り組めが人は来る。

 絶対に必要とするもの。それは何か。BNCTは、一般の人はあまり知らなくても、学者たちは知っていた。ただし、知っていても、その方法が確立されていなかった。中性子は、文字通り「中性」なので、コントロールしにくい。中性子は、ウランやプルトニウムに充てると、核分裂を起こす。核分裂を抑えるには、中性子を抑えればいい。それが原子炉の制御棒。

 こうした「恐ろしい」中性子を、いい方に利用する。いわば最悪のものを、最高のものになるよう利用する。それがBNCTであり、実用化が進めば、福島にも明るい希望が見えると考えた。

 幸いにして、大阪府の熊取にある京都大学原子炉実験所に、中性子を発生させるサイクロトロンのプロトタイプができたばかりだった。これは何十年も研究してきた成果であり、安全性も確立された。

――それはすごいタイミングですね。

 私は大震災の前、2010年の夏頃に、プロトタイプは見ていたのです。それを導入しようと考えていた。震災後、「どのようにすれば、福島を復興させることができるか」を考えた時に、私にできるのはBNCTだと思い至ったわけです。これまでにも外国の患者さんを受け入れたりしていた実績もあり、BNCTの実施を提案したら、「それはいい」と賛同者、理解者が数多く現れた。

 ――南東北研究BNCTセンター(仮称)には、何人くらいが、どんなポジションで関与することになりますか。

 各大学の関係者、またホウ素薬剤の研究開発も必要なのでメーカーの方、そのほかうちの放射線関係の医師や技術者など、いろいろなスタッフが関係します。常時、50~60人はかかわることになるでしょう。

――産学連携で、臨床研究を進めていく。

 その通りです。

――そもそも先生が、BNCTに注目されたきっかけは。

 私はかねてからBNCTに注目していました。1968年に、日本で初めてBNCTを手掛けた人がいる。東大脳神経外科の講師から、初代の帝京大学脳神経外科の教授となった、畠中坦先生です。畠中先生が米国留学から帰った後に、東海村で始めた。それ以降、実験用原子炉を使ってBNCTが行われてきました。

――BNCTは今後、医療産業育成の柱の一つとして注目されています。

 

 BNCTの器機だけでなく、その人材、ノウハウを輸出できる。海外からの患者さんも期待できます。

 

m3.com 2013.6.20

http://www.m3.com/iryoIshin/article/174079/